高齢化や人手不足・気候変動のリスクなどの課題に直面するコメづくり。田植えをせず乾いた田んぼに直接種もみをまく「乾田直播(かんでんちょくは)」という方法で、コメの生産に取り組む農業法人を取材した。
三川町にある「農業法人まいすたぁ」では、高齢化や人手不足が進んでも安定したコメの生産を続けられるようにと、新たな技術を活用した大規模な農業に挑戦している。
(まいすたぁ・齋藤一志社長)
「これから農業者がどんどん減る時代。田んぼを広くして1枚あたりの区画を大きくすることからはじめて、大きくすると田植えはしんどい仕事になるので乾田直播という結論になり、チャレンジしている」
「まいすたぁ」で7年前から取り組んでいるのが「乾田直播」という方法。
従来の方法である「移植栽培」は、ハウスなどで種もみをまいて苗を作り、田んぼに水を張った後に田植えをしてイネを育てていく。
一方の「乾田直播」は、水のない「乾いた状態の田んぼ」に直接種もみをまき、ある程度育ったら水を張ってイネを育ていく方法。
苗作りや土と水を混ぜ合わせ平らにする「しろかき」、田植えの必要もないなど、大幅に手間を省くことができるのが最大のメリット。
(まいすたぁ・齋藤一志社長)
「田植えをすると、苗作りから田んぼの作業も合わせると10アールあたり20時間ぐらいの労働時間が必要。それが20分の1になる」
「まいすたぁ」で所有する田んぼ20ヘクタールのうち、従来の「移植栽培」は全体の3割なのに対し「乾田直播」は7割。
「はえぬき」と「ひとめぼれ」を作付けしている。
「乾田直播」で作ったコメはこれまで香港に輸出していたが、2025年は初めて「はえぬき」を国内の主食用として出荷することに。
齋藤社長は、「コメの質にも自信あり」と胸を張る。
(まいすたぁ・齋藤一志社長)
「高温少雨の影響で不作と思っている人がたくさんいると思うが、うちは平年作以上の収量。そして夜温が下がってきているので、今年は透明感のあるきれいな一等米ができると期待している」
「まいすたぁ」は年々、乾田直播の栽培面積を広げていて、2026年は現在の14ヘクタールから30ヘクタールに倍増する計画。
一見、メリットばかりのようだが、齋藤社長は乾田直播の課題について次のように指摘する。
(まいすたぁ・齋藤一志社長)
「課題は初期投資。大型機械を導入しないと時間短縮ができない。自動操舵システムを使い、さまざまな衛星の情報を使いながらの農業になるので、ほかの経費がかかってしまうのが問題。また見ての通り雑草が残っているが雑草対策、収量にも影響があるのでそれがデメリット」
コメの増産へ期待がかかる乾田直播だが、全国の栽培面積に占める割合はわずか1.5%ほど。
農林水産省は、2026年度の予算に乾田直播の普及に向けた調査として40億円を要求するほか、2027年度からは補助金を出し支援していく方針。
(まいすたぁ・齋藤一志社長)
「間違いなく言えることは"農家が減る"。その中で大面積でコメづくりができる技術を広げるのが国の政策。適正な価格で国内のコメを選んでもらうために、乾田直播は低コストになるので貢献していきたい。小さい子どもたちがかっこいいと思える農業が作れればと思う」
農業の担い手不足に気候変動と、これまで以上に厳しい環境が予想されるコメづくり。
「コメどころ」の未来を新たな栽培技術が守っていけるのか期待される。
乾田直播の栽培面積は全国で約1.5%とまだ普及していない。
乾田直播が普及すると、コメ不足や価格高騰などの解決につながるかもしれない。
まいすたぁの「乾田直播」で作られた「はえぬき」は、三川町のふるさと納税の返礼品になっているという。味に違いがあるのか試してみたい。