山形が初雪に覆われた日の翌日、11月21日(金)に、第1回さくらんぼ文学新人賞贈賞式が、山形国際ホテルで行われた。壇上に飾られた色とりどりの花々や、クリスタル調の賞状など、会場は女性文学賞らしい華やかさに包まれた。
選考委員で文芸評論家の北上次郎氏、作家の小池昌代氏をはじめ、同賞共催の新潮社の編集者の方々、山形県副知事の荒木由季子氏や山形県教育長の山口常夫氏、山形市長の市川昭男氏や、山形県在住の直木賞作家高橋義夫氏、県出身で南陽市在住の作家深町秋生氏、そしてメディア関係者などおよそ60人で会場は埋まった。
主催社を代表してさくらんぼテレビ代表取締役社長阿部和夫の挨拶のあと、来賓の祝辞や選考委員の方々からの励まし、受賞者たちの喜びの言葉が続いた。
■北上次郎氏
「受賞した3 人に一言申しあげたい。選考委員が出来るのは、ここまでです。あとは自分たちで、目の前に立ちはだかる壁や困難を乗り越えていかなければなりません。それは多くの先人が歩んだ同じ道です。とにかく書いていくしかない。がんばっていただきたい」
■小池昌代氏
「今回、631本の、しなやかでしたたかな作品が集まりました。選考委員という立場ではなく、個人的に楽しんで読んだものもありました。自分のなかには純粋に『面白いものが読みたい』という気持ちがあります。これからも、面白いものを書いていただきたいと思います」
■大賞受賞・長谷川多紀さん
「愛媛から来る飛行機の中で、今年初めての雪を空から見ました。特別な雪を山形で見られたことを、嬉しく思っています。このたびは大賞をいただき、喜びとともに責任を感じています。この賞の名に恥じない作家になるよう精進します」
■奨励賞受賞・木々乃すいさん
「どうして小説を書くのかと考えるけれども、なかなか「これ」という答えが見つけられず、また、書くことをやめられず、なんの確証もないまま書いている自分をバカだと思ったこともあります。このたび奨励賞を生まれ育った地でいただき(木々乃さんは山形市出身)、2 度目の誕生日を迎えたような気がしました。先生方に読んでいただき、また書きたいという熱を帯びたように思います」
■奨励賞受賞・小林成美さん
「いままでシナリオに挑戦してきましたが、ト書きが苦手で、好きな言葉で好きなことを書ける文学を書いてみたいと思いました。そして書いたのがこの作品です。奨励賞を受賞して、この場に立っているのが奇跡のようです。その奇跡は身近な方々のひと言によって起こりました。目に見えない大きな力を感じています。これからもがんばって書いていきたいです。すべての方に感謝します」
新潮社の佐藤誠一郎氏の乾杯の音頭のあと、和やかに歓談がはじまり、さまざまな声が文学賞によせられた。その一部を紹介します。
●新潮社編集委員・佐藤誠一郎氏コメント(乾杯の挨拶より)
「応募数を聞いてびっくり。次に候補作を読ませていただいて、そのレベルの高さに二度びっくりです。一定のハードルを超えているといったレベルではなく、明日からプロになってもおかしくない書き手がたくさんおいででした。
山形は多くの作家を産んだ土地柄ですが、そんな山形の知力、文学力といったものが、日本全国からよい小説作品を呼び寄せるんじゃないでしょうか。
出版社としてこの新人文学賞に参画させていただいて、他の文学賞を幾つか運営している我々も、うかうかできないぞと気持ちを引き締めた次第です。
時流に流されない作家・作品を、第2 回以降も期待しています!」
●山形県副知事・荒木由季子氏コメント(会場にて)
「631本という多くの応募にくわえ、レベルが高いというのが素晴らしいですね。受賞作の冒頭を読みましたが、たしかに引き込まれるような感じで先が読みたいと思いました。山形に来たときにも思ったことですが、山形には文学的な風土がある。多くの作家が生み出されているのは、その人個人の問題だけではなく、地域が文化的なものを支えているのかなと感じました。それに、そういうものも含めて文化が育つ土壌があるのだと思います。
自分の気持ちを活字にしたり言葉にしていくというコミュニケーション能力においては、男性より女性のほうが素晴らしいのではないかと思うことがあります。女性で人前で話しなれていない方がいらっしゃいますが、ご本人は苦手意識をお持ちでも、話をしていただくと男性より遥かに魅力的に、自分の言葉でお話になることが多いことがあります。それに、介護や育児など、現実と向き合うのは女性のほうが多いかもしれない。自分の実体験がある程度なければ、人の共感を呼ぶようなものは書けないと思います。そのような点では、女性のほうが経験が豊富だといえるかもしれないですね」
●作家・高橋義夫氏コメント(会場にて)
「女性のための文学賞ということですが、いま、女性のほうが書き手が多いし元気があると思う。女性のほうが訴えるものが多くあるかもしれないね。小説を書くうえでいえば、男女はあまり関係ないと思う。その人間が言いたいものを持っているかどうかが大切だと思う。
小説を「女性のもの」「男性のもの」と断定して考えた事はないけれども、投稿者を女性と限定すれば、たくさんくるだろうなと予想はしてたね。昔の女房文学じゃないけど、日本の文学を支えてきたのは女性だから。小説のような形式の物語は女性が書くもんだったんだよ。文字を書くのは男性が多かったけど、男が物語を書くようになったのは江戸中期以降だから、日本はもともと女性が物語を書く国なんだよね。
第1回の受賞者は責任が重いよね。この賞の行く末は受賞者の活躍次第だから、どんどんいい作品を書いてもらいたいよね」
●山形県教育長・山口常夫氏コメント(会場にて)
「私は山形にきて20年以上経ちますが、山形には著名な作家がたくさんおります。山形にはそういう土壌があるように思いますね。いま、子供たちの活字離れが言われていますが、地元のさくらんぼテレビが設立された文学賞を、もっと全国に発信していただきたいですね。
昔から「読み書きそろばん」といわれますが、「読み」が1番最初に来ているのは単なる語呂あわせだとは思っておりません。読物が基本にあるのだと思います。読物をいろんな感性を持って読み、感情移入する力をつける。そういったことを幼い頃から身につけることによって、いくらでも人間性を育てる可能性を秘めているわけですよね。
全国学力学習調査などで、想像力、考える力がまだ不足しているということが指摘されているんですが、自分が持っている感性をどの段階で研ぎ澄ましていくかというのが大変重要だと思うんです。今回、さくらんぼテレビのホームページで選考過程を読みましたが、山形に若い書き手がたくさんいらっしゃる。この賞の設立で「みんなでいい作品を読んで、一緒に感じてみよう」そういう機運が高められたような気がします。山形の文学、文豪を生み出してきた地というものが、この文学賞でより厚みを増すような気がします。本当に素晴らしい賞を設立されたと思います」
●運営委員・池上冬樹氏コメント(中締めの挨拶より)
1年前に企画がスタートしたとき、はたしてうまくいくのだろうかと一抹の不安をいだいたのですが、まったくの杞憂におわりました。631本という驚異的な本数がよせられたこと、下読みに評論家をいれ、そのコメントをホームページでアップし多くの信頼を獲得したこと、そして選考委員にめぐまれて、いい作品を選ぶことができたことを、とても嬉しく思います。
まだ、第1回ですし、課題もありますけれど、「女性のための文学賞」といったら「さくらんぼ文学新人賞」といわれるような拠点の一部ができたのではないでしょうか。
もちろん、広く認知されるまでには時間が必要ですが、これからも地道に、確実にいい作品を見いだしていきたいと思います。
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贈賞式は盛況のうちにおわった。
今回、631本という応募作品がよせられた「さくらんぼ文学新人賞」は来年以降も継続します。
第2回の募集開始は、09年1月1日からです(詳細は12月末に、さくらんぼテレビのホームページにて発表されます)。
第2回も、みなさまの瑞々しい感性溢れる作品をお待ちしています。