6月30日、第三回さくらんぼ文学新人賞贈賞式が、メトロポリタン山形で行われました。
選考委員で文芸評論家の北上次郎氏、作家の唯川恵氏をはじめ、同賞共催の新潮社の編集者、山形市教育委員会教育長の後藤恒裕氏や山形大学学長の結城章夫氏、山形市芸術文化協会会長の大久保義彦氏、そしてメディア関係者など、多くの人で会場はにぎわいました。
主催社を代表して、さくらんぼテレビ代表取締役社長阿部和夫と、同社専務取締役鈴木秀明の挨拶、そして来賓の祝辞や選考委員の方々からの激励、受賞者たちの喜びの言葉が続きました。
◆阿部和夫(さくらんぼテレビ代表取締役社長)
「大賞を受賞された中村さん、おめでとうございます。それから選考委員の北上先生、唯川先生、文学賞運営委員の池上先生、ありがとうございました。おかげさまでさくらんぼ文学新人賞も第三回目を迎えました。関係者のみなさま、とくに新潮社のみなさまには、最初の賞の立ち上げのころから、ご助力いただきました。今回で休止となりますが、この賞は山形の大事な文学的なインフラだと考えております。これからもさまざまな形で、さくらんぼテレビといたしましては、後押ししていき、尽力をつくしたいと思っております」
◆鈴木秀明(さくらんぼテレビ専務取締役)
「さくらんぼ文学新人賞は第三回目で、いったんお休みをしますが、この山形県には、文芸評論家の池上冬樹さんが世話役をされ、今年で15年目を迎え講座がございます。この6月には、講座の会長である吉村龍一さんが、小説現代長編新人賞の大賞に輝き、これで講座からは5人の作家がプロデビューしたことになります。もちろん山形県は斎藤茂吉をはじめ、藤沢周平、井上ひさしなど、多数の文化人を輩出している土地柄でございますので、今後も放送文化などを通じて、さくらんぼテレビとしては、さまざまな形で文化活動に協力させていただきたいなと思います」
◆吉村美栄子山形県知事からのメッセージ(山形県生活環境部部長 佐藤和志氏より紹介)
「このたびに、栄えある第三回さくらんぼ文学新人賞大賞贈賞式が盛大に行われますことに、心からお祝いを申し上げます。さくらんぼは山形県を代表する果物であり、その愛くるしい姿かたち、そしてみずみずしく、甘酸っぱい味により、多くの人々をひきつけてやみません。大賞受賞作「記憶」を著された中村玲子さまにおかれましては、今後、ますます創作に励まれ、さくらんぼのように人々に愛されるすばらしい作品を数多く結実していただきますよう、ご期待申し上げます。結びに、本文学賞の運営にご尽力されました株式会社さくらんぼテレビジョンをはじめ、関係者のみなさまに、深く敬意を表しますとともに、本日ご参会のみなさまのご健勝を祈念して、お祝いの言葉とします」
◆後藤恒裕氏(山形市教育委員会教育長)
「大賞を受賞されました中村玲子さん、まことにおめでとうございます。さくらんぼ文学新人賞は、女性の書き手による日本文学の新たな可能性を切り開く文学賞として企画され、今年で第三回目を迎えられました。この山形の地から、このように女性の新たな才能を発掘し、全国に発信していく。これは大変すばらしいことであり、山形県の文化の発展に大きく寄与するものであります。この文学賞の企画運営を手がけておられるさくらんぼテレビさんに心より敬意を表し、また受賞の栄誉を浴されました中村玲子さんのさらなる飛躍を祈念させていただきまして、お祝いの言葉といたします」
◆大賞受賞者・中村玲子氏
「このような晴れがましい席に、出席できるとは想像もしておりませんでしたので、じつは昨日からお米粒が喉を通りませんでした。しかしニュース番組などを見ておりますと、レディー・ガガは25歳で、チャン・グンソクは23歳です。52歳の私がここで怯えてなんとすると思いまして、勇気をふるってまいりました。
さて、今日は新幹線で福島を通ってまいりましたが、未曾有の大災害と困難の時代に、この賞をいただきまして、改めてその重さを噛み締めております。こうした時代に賞をいただきましたが、私の作品が世の中に出たのは、偶然なのではなく、必然であったと言われるような物書きになっていきたいと思っております。日々、精進いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」
◆北上次郎氏(文芸評論家)
「じつは選考はもめました。今回から選考委員が、四人から二人になったので、選考委員が少なくなれば、それほどもめたりはしないかなと思ったら逆で、なかなか決着がつかず、すんなり行かなかったことをまず正直に申し上げておきます。
ただ中村さんはがっかりされる必要はありません。新人賞の一番の本質は、スタートする権利を与えられるということなんですね。ですから乱暴な言い方をすれば、過程はどうでもいい。結果が勝負だと。ですから、受賞されたことは素直に喜んでいいと思います。ただ、これから中村さんがどういう作家になっていくのかは、その先の努力と工夫、誠意と忍耐にかかっています。できれば五年後や十年後に、「あのときの選考で、どうしてこの作家をすんなり選ばなかったんだろう」と、私や唯川さんをくやしがらせてください。今、願うのはそれだけです」
◆唯川恵氏(作家)
「これまで三回、さくらんぼ文学新人賞の選考をさせていただきましたが、今回もとてもいい作品を選べたと思っております。「記憶」を一読したとき、中村さんが持っている文章力に感銘を受けました。物語がどんどん違う方向にいって、展開も変わっていくんですが、なんの違和感もなく引っ張っていってくれる。こういった文章力を持っていることが、とても強い味方になってくれると思います。
中村さんとは同じ年代なのでよくわかるんですが、だんだんと気力も体力もなくなっていく時期ではあります。けれど、今から一から始めてみるのも、小説家としてはおもしろい時期ではないかなと思います。ぜひ新しい小説にチャレンジして、世の中にいろんな幸福を広めていっていただきたいと思います。頑張ってください」
◆佐藤誠一郎氏(新潮社・乾杯あいさつより)
「中村さんは重厚な表現力をお持ちだと思いました。選評のなかには、テーマをつめこみすぎだという評価もあるし、私もそう思うんですが、だからこそ「この人は長編作家になるぞ」という思いを抱きました。あれだけの表現力があるのであれば、長編も書けると思いますし、大活躍されることを希望しております」
◆池上冬樹氏(文芸評論家・文学賞運営委員)/中締め挨拶より
「さくらんぼ文学新人賞は、ずっと朝日新聞北海道支社がやっていたらいらっく文学賞が中断したので、それに続くような形でスタートしました。評論家が下読みをしまして、どういう過程で選考が行われていくのかが、ホームページで確認できるということで、評判もいい。いったん休止となりますが、講座が作家を生み出しているので、またこういった形を財産として、新しいものを作っていけたらと思っております」
◆結城章夫氏(山形大学学長)/会場にて
「今回、はじめて授賞式にまいりましたが、401篇もの応募があったというのは、すごいことだと思います。山形は、文学はもちろんですが、さまざまな文化が栄えやすい土地で、たいへんすばらしいことではないでしょうか」
◆大久保義彦氏(山形市芸術文化協会会長)/会場にて
「山形市芸術文化協会の会長として、タウン誌やドキュメンタリー映画祭など、県内のさまざまな文化事業に関わってますが、やはりこうした事業で大切なのは、継続であると思っております。新しい形であれ、なんであれ、引き続き山形から文化を発信していってほしいですね」
◆川崎俊一氏(さくらんぼテレビ番組審議会委員長)/会場にて
「山形から文化を全国に発信する例というのは、少ないんですよね。このさくらんぼ文学新人賞は、新潮社の協力を得て、新人を発掘してきた貴重な文化です。別の形ででも、なにかできないかなと思いますし、もし新たな発信する機会があれば、また応援したいと思っております」
◆新井久幸氏(新潮社 小説新潮編集長)/会場にて
「北上さんも仰っていましたが、今回は最終選考で意見が割れました。これはつまり、選考委員の心をつかむ作品がいくつもあったということだと思います。大賞に輝いた「記憶」はそのなかで、訴えたいものがもっともはっきりと表れていた作品だったのではないかと思います。テーマのつめこみすぎというのは、裏を返せば、訴えたいことがたくさんあるという話であって、その気持ちの強さが今回の受賞につながったんだと思います」
第三回も401本と、多数の応募作品がよせられた「さくらんぼ文学新人賞」ですが、今回をもちまして、いったん休止とさせていただきます。今までたくさんの方から応援をいただきました。まことにありがとうございます。