『BOOKトピックス』vol.7

 

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vol.7
 『最後の証人』
柚月裕子氏
~事件の裏にある動機を鮮明に浮かび上がらせたい~

柚月裕子(作家)× 池上冬樹(文芸評論家)

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  ■『臨床真理』の文庫化について/復活した場面/社会派?

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  --まずは『臨床真理』の話をお聞きしたいと思います。というのも、応募原稿にはあり、単行本ではカットされた場面が、文庫化に際して復活したからです。少年が臨床心理士の美帆を襲う場面ですが、とても胸をうちます。障害者の性欲の問題、それに直面せざるをえないヒロインの精神的・肉体的な危機と、それを真摯に受け止めて、だれが悪いわけでもない状況の悲劇をしかと見据える。社会的なテーマとヒロインの精神性を際立たせる、とても重要な場面です。

柚月 思い入れがあった部分でしたので、文庫に収録できてよかったと思います。

 --その『臨床真理』は一言でいうと、社会派サスペンスとなるでしょうか。「このミステリーがすごい!」大賞は、どちらというと色物といいますか、ちょっと変わった舞台の、オフビートな題材の小説が目につきましたが、『臨床真理』は初めてですね。硬派な社会派の作品です。柚月さんは最初から社会派を書いて見ようと考えていたのですか?

柚月 『臨床真理』ははじめて書いた長編で、無我夢中で書いた作品でした。書き上げることに必死で、自分の作品が何派なのか、など、とても考える余裕などありませんでした。

rinsyogekan.JPG■最新作『最後の証人』/同志愛/横山秀夫の賛辞 

  --今度はリーガル・スリラーです。ただもれつたわるところでは、最初は裁判員制度をネタにした法廷劇を考えていたとか? いろいろな変更があったのですか?

柚月 最初に考えたプロットは、もっと裁判員裁判を軸にしたものでした。しかし、プロットが通って書きはじめた段階で、キーワードだけ抜き出すとかなり重なる作品が刊行されたんですね。「これはもう使えない」と思い、法廷という舞台だけ残して新しいプロットを一から考えました。それが本書です。

 --辞め検の中年弁護士佐方貞人と若き女性検察官庄司真生の対決を軸に、3日間にわたる裁判劇の行方を追う物語です。物語では、それと並行して、息子を交通事故で失った夫婦の物語が同時に進む。この構成が見事ですね。

柚月 ありがとうございます。

ikegamitopic07.JPG --トリッキーな構成で、それが単に仕掛けで終ることなく、同志愛というテーマを補強するための構成になっている。すこしひっぱりすぎという不満もありますが、ひじょうに感心しました。なぜそのような構成を思いついたのですか? 

柚月 ふたつの違う流れが、ある場所でぴたりと合流する。そのことによって、事件の裏にある動機というものを鮮明に浮かび上がらせたかった、ということがあります。

 --帯には横山秀夫さんの賛辞がついています。横山さんが単独で推薦文を書かれたのははじめてですね。うれしかったのでは?

柚月 大ファンだったので、信じられないほど嬉しかったですね。本当にありがたかったです。私にとっては賛辞というよりも「これから、がんばりなさい」というエールのように思えました。

 --人の胸をうつのは、法と正義の問題を真摯に取り組んでいるからですが、それは端的に登場人物の生き方や台詞にもうかがえます。「法を犯すのは人間だ。検察官を続けるなら、法よりも人間を見ろ」・・・など名台詞がすくなからずあります。ふだんからこういう事を考えているから出るのでしょうか?

柚月 すべてがそうとは言い切れませんが、漠然とではありますが、普段から感じていること、考えていることは作品のなかに入っていると思います。


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 ■柚月裕子の文体/テーマとの兼ね合い/『小説家になる!』

yuzuki1.JPG --それにしても、印象的なのは、てきぱきとした、ひじょうにスピーディな文体です。余分なものがなく、実にハードボイルド。視点のゆらぎがないのも心強い。今回単行本を読み、ゲラとてらしあわせたところもあるのですが、さらに削っていますね(笑)。驚きます。なぜそこまで削ってしまうのですか? 小説家を志していたときに熟読していたという、中条省平さんの『小説家になる!』(現在はちくま文庫『小説の解剖学』『小説家になる! 芥川賞・直木賞だって狙える12講』)の影響でしょうか。

柚月 いろいろな文章作成の本は読みましたが、なかでも中条さんの著書に教えられたことはたくさんあります。いまでもときどき読み返しますが、読んだ後ははずかしてく、自分の作品が読み返せなくなります(笑)。削るというのは、私がまだ筆力が足りない、ということがあると思います。レトリックを巧みに使った作品を読むと「私もこんな文章を書きたい」と思い、レトリックを使って書いてみますが、大半は使い物になりません。読み返すとそこだけ浮いてしまっているんですね。そうなると「ああ、みっともない」と削ってしまう(笑)。まだまだ力が足りないんですね。がんばります。

 --『臨床真理』『最後の証人』と2作書き上げて、正直なところ、どんな感想をおもちですか? 第一作ではかなり手厳しい評価をされて、相当にへこんでいた時期があるとききましたが。

柚月 本の刊行を出産に例えるならば、一作目の産後のマタニティブルーはひどかったですね(笑)。出産から2~3ヶ月くらいも過ぎれば、自分の子供も客観的に見られるのですが、出産直後というものは、気は昂ぶっているし、無事に出産を終えた喜びで、冷静に自分の子供を見られない。だから、一作目の感想を読んだときは「そんなにひどいかしら……」と落ち込みもしましたが、しばらく経つと「もっともだな」と(笑)。


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■出産と評価と愛猫との関係/3作目は『最後の証人』の続篇                               aibyoruna.JPG

 --その出産と評価の関連について、日本推理作家協会の会報に書いていますね(2009年9月号「日本推理作家協会入会によせて」)。前回の『臨床真理』のBOOKトピックスのときにも出てきた愛猫ルナちゃんの避妊手術で子宮をとる話です。

柚月 動物病院の先生からとった子宮を見せてもらう話ですね。ルナは私がお腹を痛めて生んだ子ではありませんが、我が子のように育てている猫です。自分の一存で飼い、独断で性を取り除いた責任から目を背けてはいけない。都合のいいところだけを見て、都合の悪いところは見ないなどというずるいことをしてはいけない、という思いがありました。

 --「ルナを我が子と思うように、自分が書いた小説も我が子のように思っています。親である以上、子供への責任は持たなければいけません」と書いています。

柚月 ルナの子宮を見たときから、作品に対するすべての言葉から目を背けることなく、真正面から受け止めなければいけない、と思うようになりました。これからも、さまざまなご意見やご感想をいただくと思いますが、すべての言葉を真摯に受け止めていこうと思っています。aibyopino.JPG

 --ところで、そのルナちゃんに姉妹ができたそうですね(笑)。なんという名前ですか?

柚月 ピノといいます。大好きなアイスの名前からとりました(笑)。まもなく一歳になります。ピノも避妊手術を受けましたが、ピノの子宮もこの目でしっかり見ました。

 --このぶんだと、第三作が出るころにはまた扶養家族が増えそうな気がしますね(笑)。さて、その第三作の話をきかせてください。『最後の証人』の続篇となるのでしょうか?

柚月 本書を書き上げた時点では、続編を書くという考えはありませんでした。でも、作品を読んでくださった方の多くが「続きが読みたい」という感想をくださり、とても嬉しかったんですね。本書で書ききれなかった部分もありますし「続きを書いてみようかな」と考えて、三作目のプロットを練っているところです。

 --『最後の証人』で語られなかった佐方の過去や生き方が出てくるのでしょうか。それは実に楽しみです。今日はどうもありがとうございました。

 
柚月裕子先生の最新作『最後の証人』のサイン本プレゼントは応募を締め切らせていただきました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました!

※なお、予想を超える多数のご応募をいただきましたことから、当初1名様にプレゼントする予定でしたが、柚月先生のご協力をいただき3名の方にプレゼントさせていただくことになりました。


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プロフィール 

◆柚月裕子(ゆづきゆうこ)。1968年岩手県生まれ。山形県在住。08年に『臨床真理』で、宝島社主催の「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。10年5月に受賞後初の作品となる『最後の証人』(宝島社)を刊行。現在、三作目を執筆中。 


 

 

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