『BOOKトピックス』vol.6

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vol.6
 『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』
相場英雄氏
~自分にしか得られない視点を求めて~

相場英雄(作家)× 斎藤健太(映像作家)


■憧れの記者時代/金融の激動期

nameaiba200.jpg--相場さんのお生まれは、新潟県とお聞きしましたが。

相場 僕は新潟の三条市というところで高校まで育ちました。冬の地平線が吹雪く様子や海岸線、山の緑などが原風景としてありますね。そのあたりは小説を書くうえで、自然の描写などに活きている部分は大きいかもしれません。

--高校を卒業されてからは東京に出て、時事通信社に入社されたそうですね。新聞記者に憧れはあったんですか?

相場 ぼんやりとした憧れはありましたね。親父が町工場をやっていたんですが、家業が無くなってしまったので、自分で職を探すしかなかったんです。時代がちょうどバブルの最中だったので、新聞社に上手く潜りこめたんですが(笑)、いざ入社してみたら理想とのギャップがすごかった。こんなの地味なのって驚きました(笑)。配属されたのが一般職だったせいもありますが、もっと華々しいと思っていましたから。


--入社して七年目に金融面を担当されたんですよね。

相場 1995年でしたね。ちょうど日本の金融が大きく変わり始めた頃でした。記者の数が足りないという事で、経済の用語を知っている人間を他の部署から引っぱって来いという話が社内でもちあがりまして。で、あいつ七年もゴロゴロしてるなら現場で揉んでやれと(笑)。配属されていきなり大和銀行、現在のりそな銀行が米国債で大きな損失を出して、その謝罪会見が記者デビューでした。

--当事は大蔵省も日銀も法律が定まらない状態で処理していた時期ですよね。記者の方も大変だったんじゃないですか?

相場 例えば殺人事件なら犯人が捕まった時点でひとつのゴールに辿り着きますよね。けれども、この時代の金融は法律がまだ出来ていない状態だったので、何がニュースかもわからないまま一年も二年も追っかけるんです。目隠しで走っているような気持ちでした。

--一般職から、憧れていた記者職になっていかがでしたか?

相場 体育会系でしたね(笑)。先輩からは椅子を蹴られる、原稿のゲラを破られるなんてしょっちゅうでした。そのあたりの経験が『みちのく麺食い記者シリーズ』の主人公、新聞記者である宮沢賢一郎の扱われ方に活きています(笑)。


■小説を書くきっかけ/受賞の驚き
 

--そんな中で2005年『デフォルト(債務不履行)』で第二回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞なさいます。小説を書いたきっかけは何だったのでしょうか?

相場 キャリアがあがってサブキャップまで昇進したのですが、そうすると今度は書く側から後輩の書いた原稿をチェックする側にまわるんですよ。デスクになると仕事が全部それになってしまう。朝から晩まで人の原稿ばかり読むなんて耐えられないと思っていて(笑)。
そんな時、ある作家の方と仲良くなったんです。その方に「君は小説を書いてみたら面白いと思うよ」と勧められ、半年ほどかけて、本当に軽い気持ちで小説を書いてみたんですよ。その後、たまたまダイヤモンド社の方とお会いした際にダイヤモンド経済小説大賞の事をお聞きして応募したわけです。

knamaeenta250.jpg--小説はそれ以前にも書いていたんですか?

相場 いっさい無かったです。なので、書いている時は本当に面白いのか、自分では全く判断がつかず、不安でした。

--じゃあ、受賞の時はご自身も驚かれたんじゃないですか?

相場 冗談でしょ?と思いました(笑)。最終選考当日に担当の方から電話をもらいまして「ペンネームの読み方ははアイバヒデオでよろしいんですよね」と、それだけ確認して切れたんです。ああ、これは3位くらいにはなったのかな?と思って喜んでいたら、30分ほど経ってから「おめでとうございます、大賞です」と連絡が来ました(笑)。

--受賞後、作家一本で食べていこうと決めたのはいつごろですか?

相場 受賞後にもう一作『株価操縦(マニピュレーション)』(ダイヤモンド社)を出版した後も記者を続けていたんですが、社内での風当たりが強くなってきたんですね。その前から、一般職で入った自分が金融の担当になった事など、日の当たるところを歩いているのを快く思わない人間も居たんですよ。後ろから身内に撃たれるような経験も多々あって(笑)。ああ、これなら作家一本で行ったほうが良いやと、思い切って独立しました。

--その後も『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)など精力的にお書きになっています。書いていく中で何か変化はありましたか?

相場 編集者の方との関わりで、書く姿勢も変わりましたね。ダイヤモンド社の担当の方は、もともとビジネス書の担当で文芸は初めてだった方なんです。なので、お互い手探りで喧嘩しながら進みました。それから双葉社さんや小学館さんからお仕事をいただくようになって、プロフェッショナルである担当さんとのやり取りで、様々な経験をさせてもらいました。担当の方に救われている部分は大きいです。


■エンターテインメントへの思い/地域の魅力を伝える/酒田ラーメンの味

--麵食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き・因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉文庫)の麺食い記者シリーズをお書きになっています。これまでとは、ずいぶんジャンルが違いますね。

相場 僕は経済小説だけを書きたかったわけではなくて、もともとは非常にエンターテインメント志向が強い人間なんですね。処女作『デフォルト(債務不履行)』も、映画の『ダイ・ハード3』が好きで、舞台を日本に変えて書いてみたいと思ったのが発端なんですよ。そこに自分の得意な経済の要素を盛りこんでみたんです。ですから、推理物のお話をいただいた時は、いよいよ自分の書きたいものが書けるというので嬉しかったですね。

b300nameook.JPG--シリーズ2作目となる『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉文庫)は山形県庄内地方が舞台ですね。酒田市にかつてあった映画館や、クラゲで有名な鶴岡市の加茂水族館まで、庄内を代表する文化が数多く登場しますが、取材もかなり綿密におこなったんですか。

相場 文章に出てくる場所以外も数多く取材しましたが、何よりも、自分の見聞きした街の匂いや手触りなど、読んでいる方が実際に土地の雰囲気を感じてもらえるような部分を大事にしました。地元の方が気づかない、よそ者の僕だから見えるもの……例えば酒田市にある山居倉庫のケヤキ並木を見た時に「あ、これは映画の『第三の男』みたいじゃん」と感じたんですね。そういった視点や発想は大切にしようと心がけました。

--相場さんの作品の舞台が単なるお仕着せではなく、地域の魅力がきちんと盛りこまれている理由は、そういった取材の仕方にあるのかもしれないですね。なかでもユニークなのが主人公の宮沢賢一郎です。敏腕記者であると同時に無類の麺好きで、行く先々でご当地の麺類を食べる描写が出てきます。麺好きという設定は、どういったアイデアから生まれたんですか?

相場 まず、僕自身がとても麺好きなんですよ。一日三食でも良いくらい(笑)。企画段階で主人公を考えている時に、どれかひとつの分野に詳しくて、地域に根ざした文化を愛するキャラクターにしたいと悩んだ結果、宮沢賢一郎が生まれたんです。

--今作では、酒田名物であるトビウオ出汁(だし)のラーメンが物語の重要な鍵となりますが、相場さんご自身も召しあがったんですよね?

相場 食べました。いやあ、美味しかったです。僕の子供の頃は、家族で外出するとお蕎麦かラーメンを食べに行ったものだったんですが、酒田のラーメン屋さんに入った時、同じ光景に出会ったんです。おじいちゃんが孫を連れていたり、親戚など大勢で来ていたりと、地元の方が家族連れでラーメンを食べている。これは東京には生まれない文化だと思いました。日常生活の一部として定着している。舞台となる地方をあらわすのに麺類を選んで、とても良かったと改めて感じましたね。

 


■書く時の決まりごと/社会問題へのまなざし

--そんな宮沢賢一郎が、今回は酒田市で起きる連続不審火と老人ホームで起きた殺人事件に隠された謎を、明快な推理で解き明かしてゆきます。綿密なプロットやトリックもさる事ながら、企業犯罪を担当する捜査二課の田名部や、嫉妬深くて淋しがりな宮沢の妻、亜希子などキャラクターの魅力も大きいですよね。彼らと宮沢のやりとりが物語に深みをもたせています。

相場 キャラクターに関しては練りますね。担当の編集者さんからも「突飛なトリックよりも人間を書いてください」と言われるんです。「こんな状況なら人はどう動くだろう?」「こんな時に人は何を考えるだろう?」と常に考えます。人間をきっちり書くというのは、自分の中での決まり事です。

aibayokogao270.jpg--そのほかにご自身で決めている、縛りはあるんですか?

相場 舞台になった土地の悪口はいっさい書かない(笑)。いや、これは笑い話でも何でもなくて、本当にそう決めているんですよ。今まで僕が読んできた旅情ミステリでも、事件の起こる土地をケチョンケチョンにけなしているものが幾つもあったんですが、それは僕の作品においては何か違う気がしたんです。どうせなら、そこの文化や風土の魅力をきっちり描いて、地元の人も楽しく読んでもらえるものが良いなと思って。だから作中でも、批判的な部分は、登場する誰かに「市民感情を逆なでしてますよね」などと、フォローする台詞を言わせています。

--お話を聞いていると、相場さんは人に楽しんで貰いたいという気持ちが本当に強いんだな、それが作品にあらわれているんだなと感じますね。
物語の面白さもさることながら、高齢者問題やそれに伴う老人ホームをめぐるビジネスなど、生々しい社会問題の絡め方も絶妙です。やはり元新聞記者の面目躍如といったところでしょうか。

相場 今はウェブ上でニュースのコラムなどを連載していますが、その中でも現役の記者が書かないような、斜めの視点で書いているんですよ。小説の中でとりあげた老人ホームビジネスなどは近いうちに必ず社会問題として出てくると思います。

--社会問題などを盛りこんで書きたいという思いはありますか?

相場 それは強いでしょうね。新聞記者って自分しか知らない情報を誰よりも早く出したがる性分なんですよ。ほとんど病気なんです(笑)。それと同時に記者を続けるモチベーションとして「この問題は許せない」というジャーナリストとしての情熱を抱えているんです。じゃあ現場を離れた僕が書けるやり方って何だろうと考えて、小説の中で問題を提起しているんですね。

--やはり相場さんの中にある記者魂と、楽しませたいというエンタテインメント志向の二本柱が、麺食い記者の面白さの基になっているのでしょうね。次回作はもう決まっているんですか?

相場 麺食い記者シリーズの津軽編が小学館から、秋田編が双葉社から出ます。あとは徳間書店で連載していた、デビュー作の続編的な短編が本になる予定です。

--今後とも楽しみにしています。ありがとうございました。


syugou500.jpg2009年7月 山形市 さくらんぼテレビ本社にて

 


プロフィール


◆相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。
1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、95年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。
2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。
著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、
漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載中。


◆斎藤健太(さいとう・けんた)
1976年青森県生まれ。
東北芸術工科大学情報デザイン学科卒業。自主制作映像作品に『アルビノ』『あまりにも女々しい太陽』など。2004年より文筆業にも活動を広げ、山形新聞や河北新報などにエッセイを連載。


 

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