Vol.1
『東京デッドクルージング』
深町 秋生
~人物だけでなく裏の社会情勢や風景が陰の主人公~
 | 2015年の年の瀬。オリンピックが湾岸で開催されるが、格差とインフレですっかりスラム化が進んだ国際都市東京が舞台。 そのころの日本は、市場開放路線を取ったおかげで多くの外国人でにぎわう反面、外国人狩りにはげむ暴走族や自警団がうろつき、国粋主義団体や宗教団体が貧乏な若者を洗脳しては自前の私兵を持ち始め、関西のお笑い芸人が首相になり、監視社会&ド貧乏路線をまっしぐらに突っ走り、かなり終末の臭いを漂わせているという状況である。 CIAの業務委託仕事をしている国粋主義団体の民兵倉田は部下をともなって、アジア人が集まる池袋のクラブを襲撃。「人命ほど安いものはない」という価値観のもと、多くの人間を殺害しながら中国政府の要人を拉致して逃亡。しかし倉田らにクラブで殺害された脱北者の肉親が復讐のために調査に乗り出し、また要人奪還のために、倉田たちと同様に冷酷な東京の中国諜報機関も動き出して3WAYマッチを展開するというストーリー 深町秋生の新人日記より |
―― 新作『東京デッドクルージング』は2015年、スラム化した東京が舞台です。デビュー作の『果てしなき渇き』(宝島社/05年/15万部突破)と2作目の『ヒステリック・サバイバー』(宝島社/06年)は現代が舞台でしたが、今回、近未来にした理由はなんですか。
深町 理由はいくつかありますが、そのひとつに現代の誇張があります。暗部、長所、短所、どちらも強調して書ける。正直なところあまり近未来で書いたという意識はなく、現代を誇張した感じですね。今回のテーマは「怒り」なので、それを派手に描けるという意味で近未来にしました。
―― 作品のなかに「中国のひとりっこ政策」とか「メタボ対策」という言葉が出てきます。このあたりを読むと、近未来といってもとても身近な感じを受けますね。でも、描かれているのは明るい未来ではないですね。
深町 近未来というと、映画「ブレードランナー」(92年公開/監督リドリー・スコット)や大友克洋の「AKIRA」(講談社)など、サイバーパンクと呼ばれるジャンルがありますが、80年代のバブルいけいけだったころは「サイバーパンクのようなかっこいい未来になったらいいなあ」という願望があったんですね。でもバブルと大不況で格差社会などが出てきた。これはどうも明るくもなければ、かっこいい未来にもなりそうにないな、もっといえばみじめったらしい未来が今回の舞台設定です。
―― 今回、北朝鮮や韓国、ロシア、アメリカなど、世界各国の政治的な要素も含んでいます。壮大な舞台ですが、ディテールがしっかり書き込まれているので、読者は「数年後、本当にありうるかもしれない」と思ってしまいます。
深町 そうですね。今回は人物が主人公というだけでなく、裏の社会情勢や風景が陰の主人公なので。
―― 六本木や東久留米、汐留など、実在する地名も多く出てきます。綿密に書き込まれていますが、取材はかなりされたのでしょうか。
深町 結構しましたね。でも、カメラを持ち歩くような取材ではないです。視覚だけだったら、ネットや写真で用は足りますから。でも嗅覚や触覚や雰囲気、そういうのはその場にいかないとわからない。そのあたりを意識して取材しますね。
―― 深町さんの作品の特徴として過激な暴力シーンがありますが、今回の作品も火薬の匂いや血の臭い、そして街の廃頽した臭いなどもリアルに伝わります。
深町 実際は100のものを見て、実際に作品で使えるものなんて2、3しかないんですよ。でも、その2、3に絞り込んだところに真実がある場合がありますよね。臭いに関していうなら、今回は前作の2作よりも暴力が汗臭くないと思いますね。普通の人間がふるう暴力と、兵隊みたいなプロがふるう暴力は違います。今回はその差別化は意識して書きました。今回でてくる登場人物たちは暴力の味を知り尽くした人間なので、ロマンも思い入れもなんにもなく、ドライな感じにしたかったんです。でも以前から僕のファンだという高校生からファンレターをもらったんですが「今回の作品は汗臭くなかった」と書いてあったんです。まあそれはこっちの思惑通りだなと(笑)。
―― 『東京デッドクルージング』にはIMC(テロ集団)の現場指揮官、晃。妹の復讐を誓う女シン・ファラン。山形弁を話す伴野兄弟など、魅力的なキャラクターが多く出てきます。登場人物にモデルはいるのでしょうか。
深町 晃やテロ集団は、映画「狂い咲きサンダーロード」(80年東映製作・監督 石井聰亙)から影響を受けました。主役である晃の反抗精神のようなものもそうです。あと影響をうけているといえば、「仁義なき戦い」(73年東映製作・監督 深作欣二)あたりでしょうかね。
―― 登場人物たちの関係に一切、馴れ合いはない。一見、クールで冷酷な関係に見えるけれども、深い部分では強い繋がりがあります。
深町 なんだか今、人間関係が希薄だとか言われていて、毎日親殺しや家族をナイフで刺した、なんて事件が起きている。だけどあれって愛情の裏返しであって、これほど人間関係や親子関係が濃密な時代はないんじゃないかと思うんですよね。仲いいんじゃねえのって(笑)
―― それにしても、見事なまでに容赦なく殺していきますね(笑)。殺すことに未練はないですか。
深町 ありましたよ(笑)。ある登場人物は編集側からも「このキャラは生かしておいたほうがよかったんじゃないですか。次作も考えて」と言われたんですが、作品の完成度を高めるうえで、未練の気持ちをひきずりながらもしっかり殺しました(笑)。
―― 2004年のデビューから4年が経ちます。この4年のあいだになにか変わりましたか。
深町 だんだん方向性が見えてきましたね。深町秋生がどういうものを書きたいのかというものがようやく見えてきた。よく「作家は一作目に書きたいことがみんな集約されている」といいますけれど『果てしなき渇き』には、実は明確なテーマはあらわれていないんですね。とにかくノワールみたいなものを描きたいというだけで進めていた部分があった。2作目の『ヒステリック・サバイバー』も、書きたいものが固まりつつあるんですけれども、読み返すと形になっていない。3作目にしてやっと見えた感じですね。

―― 新作の予定、これから出版される本を教えてください。
深町 次回作は、来年、小学館からでます。ジャンルはシリアルキラーもので、山形の架空の南出羽市という街が舞台です。あと、今年の11月頃に「ヒステリック・サバイバー」の文庫が出版されます。
―― ちなみに、執筆するときになくてはならないものなどはありますか。
深町 iPodかな。昔から音楽がないと書けないんですよ。作家のなかには静かなところじゃないと書けないという人もいますが、僕はだめですね。音があったほうがいい。
―― 最後に、さくらんぼテレビHPを見ている方に一言。
深町 う~ん……(かなり悩みながら)、地方だとか格差社会とか、そういう重苦しい鬱屈を吹き飛ばすバッティングセンターのような小説です。鬱憤、思う存分、晴らしてください(笑)。
―― 今日はお忙しいなか、ありがとうございました。
(08/8/30 ホテルメトロポリタン3Fにて)
深町秋生プロフィール
75年生まれ。山形県在住。
04年、宝島社主催の第三回「このミステリーがすごい!大賞」大賞を受賞。
06年3月「プロレス・格闘技超異人伝」で大山倍達と梶原一騎の暴力表現についてコラム。
06年11月「ヒステリック・サバイバー」出版。
07年11月「映画秘宝1月号」にて「三丁目の夕日」(が描かない昭和30年代)についてコラム。
08年6月「明治・大正・昭和・平成 実録殺人事件がわかる本」に少年ライフル魔事件と、スクールシューティングについて2本コラム。
08年8月「東京デッドクルージング」出版。
現在、河北新報「微風旋風」にエッセイ連載、山形新聞土曜夕刊に「極私的映画論」に映画コラム連載中。
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