「小説家(ライター)になろう講座」だより...vol.17(2009.11.19)

小説家(ライター)になろう講座
(10月講師・柴田哲孝氏)
『 プロを目指すならば読み手のことを考えるべき 』 
 


 sibata main.JPG  10月の講師は、大藪賞作家の柴田哲孝先生(プロフィールはページ下に記載)。
山形には縁あって何度か訪れているという柴田氏だが、本講座には初登場となる。
プロフィールにあるように、パリ・ダカールラリーに参戦し、1990年にはドライバーとして完走するなど、モータージャーナリストとしての評価も高い、大の車好きである。山形には、那須の自宅から愛車のポルシェを走らせてきた。
今回のゲストは徳間書店の国田昌子氏。柴田氏の担当であり、本講座ではおなじみの名編集者である。

 kunita-main.JPG まず、はじめに、本講座の世話役である文芸評論家の池上冬樹氏から、柴田氏を講師にお招きするまでの経緯が紹介された。

 「今回の講師である柴田氏は、今年8月に亡くなられた酒田市出身の作家、北重人さんと深い関わりがあります。北さんには本講座の講師を二度にわたってつとめていただき、今年も講師としてお呼びする予定でしたが、残念ながらその願いはかないませんでした。
北さんが亡くなったのは、8月26日。そのお通夜のときに僕も上京し、親しい人たちと北さんを偲びました。そのときご一緒したのが、柴田さんであり、国田さんでした。
柴田さんは、2007年の第9回大藪春彦賞を北さんとわけあいました。北さんの『蒼火』(文春文庫)と柴田さんの『TENGU 』(祥伝社文庫)が同時に受賞したのです。それ以来、おふたり は親しいお付き合いをなさっていたそうです。
北さんの逝去を受けて、追悼の意味を込めた講座をおこなうならば柴田さんしかいないだろうと思い、講師をお願いしたところ、快諾していただきました」


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 池上氏の紹介ののち、講師である柴田氏より、北重人さんとの思い出を交えた挨拶があった。 
「北さんとは2007年の大藪賞を同時受賞し、賞金を分け合った仲でした。「兄弟だって遺産相続で揉めるのに、大金をきっちり分け合って握手して酒を飲んでいるなどというのは兄弟以上の間柄だろう」と(笑)。それからは義兄弟と称し、私は北さんを大兄と呼んでお慕いしていました。
『汐のなごり』が直木賞候補になるなど、これからという時にお亡くなりになって、非常に残念でした。北さんの遺志を少しでも継ぐ事が出来たならと思い、今回の講師をお受けしました。役不足かとは思いますが、よろしくお願いいたします」
 



今月のテキストは3作品。

・『四国歩き遍路の魅力にふれて』(杜泉新生作/エッセイ・原稿用紙4枚半)
・『春休みの思い出』(下田寛子作/小説・原稿用紙16枚)
・『氷下魚(こまい)』(吉村龍一作/小説・原稿用紙75枚)
 

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■エッセイ『遍路の魅力に触れて』(杜泉新生)
○概要
杜泉さんが3度経験したお遍路歩きの魅力を紹介するエッセイ。
作者の杜泉さんは「ぜひ、他の方にも遍路の魅力を知ってもらいたい」という思いからこのエッセイを綴ったという。もともとは、長編のイントロダクションにあたる部分を改稿した作品とのこと。

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▼国田氏の講評
「端正にまとまったエッセイだが、通り一遍の印象がありますね。短いエッセイでも本文中に印象的な一文、具体性のある描写があれば、読者をもっとひきこめると思います」 


▼池上氏の講評
「イントロダクションとしてはまとまっているが、個人的な手触りがないと弱い。エッセイで求められるのは個人的な感触・考えです。エッセイの中で触れている“遍路をしているイラン人青年との出会い" など、個人的な出会い をもっと深く掘り下げて書いても良いのではないか」 

▼柴田氏の講評
「文章は非常に上手ですし、まとまっている。しかし、長編と同じ内容を原稿用紙4枚半で書くには無理があります。長編を忘れて話題をひとつに絞り、まったく新しい切り口で書いていくべきです。
冒頭の文章が、いかにも長編のまえがきといった雰囲気ですが、ここは風景描写から入るべきだと思います。そのほうが、オーソドックスですが人の心をつかみやすい。
そこから、池上さんも言っていた“イラン人のお遍路" の話へと持っていく。長いお遍路のワンシーン、ほんの一瞬をきれいに切り取って書かれたほうが、より魅力が伝わるのではないかと感じました」

 


■『春休みの思い出』(下田寛子)
○概要
大学4年生の主人公。最後の春休み、就職活動に駆けずり回るものの、内定は一向に貰えない。苛立ちが募るある日、大学合格を果たした弟がアパートを訪ねてくる。
この部屋で同居して大学へ通いたいという弟とのやり取りの中、思わず激昂した主人公は、サバイバルナイフを取り出し、弟を刺し殺す。警察に逮捕された主人公は、取調室で刑事が渡した手紙で、弟が誕生日のプレゼントを用意し、自分を気遣っていたことを知る。優しさに気づき、後悔の中で、主人公は慟哭する。

※本来は「冬休みの思い出」「夏休みの思い出」と連動するシリーズの一編だという。


▼国田氏の講評
「主語を省いている部分なども含めて、私はわりと好きな作品ですね。ただ、就職活動が上手くいかないなど、追い詰められていく閉塞感が描写として書かれていたなら、より小説としてのリアリティが生まれたと思います。
「…なので…だった」と続くセンテンスが多いですが、もっと短く畳みかける文章のほうが、主人公の孤独感が読者に伝わりやすい。主人公が男性なのか女性なのか不明瞭な部分があるけれど、それを逆手にとって、最後に主人公が女性であると判明するような展開ならば、更にイメージが広がって良かったのにと思いました」


▼池上氏の講評
「ここぞという場面や心理の描写を弓道にたとえると、的をしっかり射抜くには、弓を強く、ギリギリまで引き絞らなければならない。この作品にはその力強さ、タメがない。矢をあっさり飛ばしている。
主人公の男が耐えて耐えて追い詰められていく過程、タメを書くことで弟を殺す場面が活きてくる。ノワール(暗黒小説)がいい例ですが、読者に感情移入させて、とことん最後まで登場人物を追いこんでいく。そこまでの追い込まないと深い絶望、読者にとっては昂奮と感動は生まれません」



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▼柴田氏の講評
「非常に読みやすい作品です。小説としての決まりごとを踏まえており、難しい言葉を用いていないところは評価できますね。
一番の問題は、弟を殺す必然性が感じられないところです。人は人をそんなに簡単には殺しません。必ず何かしらの理由があり、そこにいたる過程があります。主人公がサバイバルナイフを手にして弟を刺すくだりでも、弟の反応がほとんど書かれていない。最初は、相手を前に空想しているのかなと思ったけれど、読みすすめていくと現実に殺していて、違和感を感じる。殺す側と殺される側による感情と行動のキャッチボールがないから、空想かなと感じてしまうんですね。
連作ということですから他の作品では明記しているのかもしれませんが、あくまでも一本の小説単体として他者に読んでもらうために、作品は完成させなければならないと思います。
すべて想像で書く“弟殺し" よりも、もう少し身近なテーマに挑戦してみれば、より持ち味が生かされるんじゃないかな、と感じました」

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■『氷下魚(こまい)』(吉村龍一)
○梗概
 時代は1980年代。高校3年生の深雪は、北海道の海辺、過疎のさなかにある村で暮らしている。山形の父親が急死して、母親の故郷であるこの村に越してきたのは小学生の時だった。
父の七回忌に山形を訪れ、祖父母と再会を果たしてから数日後、北海道に戻った深雪のもとに祖父から多額の現金書留が送られてくる。学費の足しにと送られてきたもので、深雪はウォークマンを買いに札幌へと赴く。大好きな、ドビュッシーの「つきのひかり」を聴きながら眠るために。
「つきのひかり」を聴くと、深雪は村の浜に押し寄せる魚、タラの一種であるコマイを思い出す。そして、コマイの加工場とスナック勤めをかけもちする母と、彼女の乱れた男関係を思い出す。
母の淫乱の血は、自分にも流れているのだろうか。深雪が不安になるのには理由があった。札幌で、名も知らぬ男に処女をささげていたからだ。そこには、自分を汚すことで父を裏切り、愛人と戯れる母への復讐の思いがあった・・。
冬休み、深雪はコマイの加工場でアルバイトをはじめる。コマイに包丁を突きたて、内臓をひきだしながら、初体験の鈍い痛みと鮮やかな鮮血を、深雪は思い出す。
 

jukousei-0910.JPG▼国田氏の講評
「随所に素晴らしい表現はあるのだけれど、書きたいことを詰めこみすぎている。伏線になっていない箇所や、自分だけが理解しているような比喩、読者が置いてけぼりにされる曖昧な描写が目立ち、筆が滑っている印象をうけた。
また、父親の名前が文中で一回しか表記されないため、いざ名前が出てきても誰なのかわからずに戸惑ったし、物語の時間経過がわかりにくくて読む手がとまってしまう。
文章に関していうなら、「何々してい、」という書き方が何度か出てくるが、「何々している」と短くまとめて緊迫感を出したほうが効果的。また「……のよう、」という文章も多用しているけれど、ここぞという時に使うくらいにしておくべきでしょう。
個人的には、コマイのはらわたを出す、ひじょうに官能的な場面から小説が始まるべきだと思う。そこから読者を引きこんで、少女の官能への目覚めと、母親への反発が作品の世界を形成していく。
あとは、誤字も多いので、提出する前には充分すぎるくらい推敲を重ねてほしい」


▼池上氏の講評
「自分の文章に酔いすぎている。だから削れない。書きたい内容を長々と書いているから、まとまりがなくて読むほうは辛くなってしまう。自分が書きたいのは何なのかという部分と、この小説のテーマとして必要な部分を照らし合わせて、文章を削っていくべき。
それから印字そのほかについて一言。吉村氏に限ったことではないが、印字が乱れている原稿は論外です。吉村氏の話を聞くと、ワープロソフトとの相性が悪くて、それで改行の乱れや脱字が出るということですが、それに甘えては困ります。もっというなら、新人賞でその甘えは通用しません。だれも斟酌しませんし、むしろ満足に読まれないで落とされる傾向が強い。印字の乱れ=作家になる気のない素人の原稿と思うからです。講座だから最後まで読むけれども、新人賞ならば最初の2、3ページではじかれてしまう」 



text0910.JPG▼柴田氏の講評
 
「確かに情景描写の上手さはありますが、そのメリット以上にわかりにくい表現が多く、読んでいくうちに心が離れてしまうデメリットのほうが大きい作品です。
1980年代という時代背景を設定しているけれど、その時代に関する描写が少ないから、物語を読み取りにくい。色彩に関する描写も多すぎます。そのせいでコマイのハラワタの鮮烈な赤が印象に残らず、逆効果になっている。
小説、特に短編は余分な要素があってはいけない。独りよがりの無駄な部分があってはいけない。繰り返しになりますが、プロを目指すならば読み手のことを考えるべきです。
プロならば、難解な描写で何枚だって書けます。けれども書かないのは、読み手に楽しんで読んでもらうことを第一にしているからです。この長さの小説ならば、抽象的な表現、アクセントになるような独創的な表現は2つ……せいぜい3つです。「どうしてもこの一行だけは書きたい、伝えたい」という言葉を、選びに選んで、見極めて入れるべきです。
料理でたとえてみましょうか。すばらしい調味料がたくさん手に入ったとします。なかなか手に入らないゆず胡椒、とても貴重な唐辛子、有名なたまり醤油に味噌、沖縄の塩……。全部ぶちこんで、さあ最高の料理だから食べてくれ、って言われても、嫌ですよね(笑)。吉村さんの小説は調味料をすべて入れた料理です。大切なのはいかに書き足していくかではなく、いかに削っていくかです」 
 


 3本の講評のあと、最後に、柴田氏から、小説家を目指す生徒の皆さんへ、アドバイスとメッセージが送られた。

simoyama.JPG「プロを目指している皆さんへの全体論なのですが、“誰のために書いているのか" という心構えをしっかりもって欲しいですね。自分のためだけならば自費出版で作って配ればいい。そうではなくて、誰かに読んでもらうことを前提に書くのであれば、読み手の気持ちに立って、楽しめるように、わかりやすいように書くことを常に心がけて欲しいと思います。 
 小説家になるために一番大切なのは、あきらめないことです。僕も2005年に出した『下山事件』で賞をいただくまでは、とても苦労しました。紆余曲折があって文章の世界から遠ざかった時期もありましたけれど、やっぱり書き続けることに未練があって、「何が何でも成功してやるんだ」という思いを捨てずにいたおかげで、今の自分があります。強い意思がなければ残れない世界です。皆さんも、ぜひあきらめることなく頑張ってください」

 

 以上の講義のあと、池上氏が聞き手になり、柴田氏の多彩な経歴や小説への姿勢について語っていただいた。
そちらの模様は数日中に、同サイト内、「その人の素顔」でアップいたします。あわせてご覧ください。

 

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【講師プロフィール】
◆柴田 哲孝(しばた・てつたか)氏

1957年 東京都武蔵野市で生まれる。
日本大学芸術学部写真学科中退。フリーのカメラマンから作家に転身し、1984年に『私のサンタよオ-ストラリア大砂漠4WDの旅』(交通タイムス社)でデビュー。
パリ・ダカールラリーにプライベートで参戦し、1990年にはドライバーとして完走するなど、モータージャーナリストとしての評価も高い。
プロレスラーの大仁田厚氏とのオーストラリア釣り旅行や、石神井公園ワニ騒動・アウトドアの達人・等テレビにも数多く出演、世界最大の淡水魚ピラルクーを釣りに南米アマゾン川を訪れる冒険旅行記をはじめとする、アウトドアと釣りに関する著作も多い。
1990年には『小説KAPPA』(CBS ソニー出版, 、現在は徳間文庫より復刊)で小説デビューを果たし、2006年に『下山事件』で第59回日本推理作家協会賞・評論その他の部門と第24回日本冒険小説協会大賞をダブル受賞。
2007年には『TENGU 』で第9回大藪春彦賞を受賞など、いま最も注目されている作家のひとりである。
著作はほかに『KAPPA 』『TENGU 』と続くシリーズ最新作『RYU 』(徳間文庫)をはじめ、『白い猫』(徳間書店)『銀座ブルース』(双葉社)『日本怪魚伝』 (角川文庫) ほかがある。