一次選考を通過した作品は以下の43本です。
なお、二次選考の結果は9月中旬頃に発表いたします。
タイトル | 著者名 | 都道府県 | コメント |
私たち | 柴田佳子 | 岡山県 | なんともいえない味のある作品。(池) |
流女 | 佐々木裕子 | 埼玉県 | 手だれの時代小説という感じがした。(池) |
セイの、におい | 橋本美香 | 山形県 | 揺れ動く「性」と「愛」をユーモラスに、軽快に、時にエロティック、そして切なく描いて見事。(池) |
ニノミヤのこと | 長谷川多紀 | 愛媛県 | 好きだった大人の男の正体をめぐる話が面白い。ただ、ラストやや弱い。(池) |
空 | 山田遊 | 東京都 | レズビアンの恋愛が軽やか、かつ官能的に描かれている。(池) |
欲しい、 あなたが欲しい | 成代かなり | 栃木県 | なかなかエモーショナルな一篇。(池) |
優曇華の花 | 小島淳子 | 山形県 | ミステリー的で興味深い。(池) |
シャングリラ | 大久保純子 | 神奈川県 | 無遠慮のパワー、というか、すさまじい熱気がある。(池) |
雪送り | 高橋三保子 | 山形県 | 地味だがまずまずの小説。(池) |
フタバ | 栗原知子 | 千葉県 | ミドリとフタバの親子がとても良く書けている。物語にもさりげないフックがある。このクラスの作品をどんどん書けるならちょっとした才能だと思う。(三) |
おねえさんの呪文 | 木々乃すい | 福岡県 | 成長の段階にある少女の心情をシャープに描いている。最後に物語が15年ジャンプするあたりも良い。ただ、大人たちの後日談もちょっと欲しい。(三) |
踏んで踏まれて アンクレット | 文屋カノン | 山梨県 | 恋愛に戸惑う20代のヒロインがうまく描けている。甘い方向に流れない辛口の展開が買える。(三) |
おばさんものがたり | 竹内裕子 | 東京都 | 汚れに汚れたキッチンを片付けながら、過去を振り返り、自分を見つめていく姿がいい。ポジティブな幕切れも好印象。主婦の視点が光っている。(三) |
恋の手本 | 河合聡子 | 京都府 | 近松の出世作となった「曽根崎心中」の印象的な場面を見事にクローズアップしている。(東) |
人魚姫の、白い足 | 斎藤きあ | 愛知県 | 幻想小説は難しい上、「スプラッター」では汚くなりがちな作品をギリギリ上品に仕上げている。(東) |
理想のエコライフ | 消去 | 愛媛県 | 過剰な人間は面白い。こうなるだろうと思っても、最後のオチは想像できなかった。(東) |
そこはかとなく そこはかとあり | 大崎志七 | 京都府 | 祖母の恋は孫からみたら不思議なもの。家族の軋みと和解を描き少し泣けた。(東) |
ハミングバード | 塚本ゆう | 東京都 | 人間の造形が鮮やかである。希薄な人間関係の中で何かを求めている気持ちが伝わる。(東) |
わたしの運命線 | 富田エリオーレ | 兵庫県 | どんよりした学校ものに、ラスト、内側から食い破るようなダークな瞬発力が加わるのが魅力。この小説には女子ならではの脆さと酷さがあります。(温) |
約束 | 秋本絵里 | 鳥取県 | 描かれている世界はこじんまり。でも、書きたい小説にふさわしいサイズ。静かに進み、“何かが始まりそう”というオープン・エンドになっているのもいいと思います。(温) |
コーポ鯔山 | クサキノバナ | 宮城県 | オムニバス各編はいい味。しかし、串刺しするのが「敷地内に沈丁花がある」というだけでは弱すぎ。1、2行でいいから登場人物たちを交差させる工夫を。(温) |
そして、ひとくぎり | 樫井眞生 | 京都府 | 第一編がフレッシュ。初期の田辺聖子さんのような「趣味のいい風俗小説」が書ける方だと思います。第三編がちょっとこなれていなくて残念。(温) |
さえずる仏 遊ぶ神 | 太田龍子 | 神奈川県 | 規定枚数にふさわしい主題選び。町場の平安時代(宮廷ものではない、の意)がいきいきと立ち上がってきます。人物造形、構成、筆致ともに群を抜いています。(温) |
しゃぼん玉、割れた | 前川亜希子 | 京都府 | 不思議であたたかい作品だ。感覚が非常に鋭い。描き出されるビジュアルが美しい。(柳) |
モクレンの家 | 逸見真由 | 和歌山県 | 子宮感覚が生々しい。非常に達者。(柳) |
草ちゃんの家 | 加藤志保 | 東京都 | ものすごく好きな小説。視点は鋭いのだが、あたたかい。人間というものを信じたくなる。(柳) |
チェリーヴァニラ | あいさわ富喜 | 東京都 | 親友に対して抱く感情が生々しくてとてもよい。描写力も秀逸。(柳) |
房子の住む町 | ボリ | 東京都 | 房子というキャラクターがいい。周囲の人々も人間を見る目があたたかく、好感が持てる。(柳) |
プールサイドの決闘 | 鍔木ひかる | 愛知県 | 夫の浮気相手とのプールサイド(正確にはロッカールーム)での対決場面がいい。(吉) |
強欲なパズル | 小林成美 | 北海道 | 女の嫌らしさを丁寧に描いていて読ませる。(吉) |
抜け出して、 | 斎藤きあ | 愛知県 | いわゆる青春小説ではあるが、独自の雰囲気を持っている。(吉) |
やさしい手 | 周防幸子 | 東京都 | 珍しく女性キャラを使っていない。老人の同性愛的心情を描いているところがよかった。(西) |
草木愛ずる姫君 | 岡田朔美 | 神奈川県 | ちょっとひねった青春小説。ハードボイルドな園芸部女性部員が心に残った。(西) |
捩幹柘榴 | 岡部亀三代 | 東京都 | 都会の幻想物語にひかれた。(西) |
鏡の儀式 | 藤田直子 | 東京都 | 異母兄妹の間の近親相姦的愛情を描いている。エロティックな筆致がいい。(西) |
日の出書房校正室から | 村上敬子 | 埼玉県 | ダメ中年女性の再生物語。けっこう読ませる作品。(西) |
割れない卵 | 前田タカコ | 兵庫県 | 風変わりな恋愛小説。軽いタッチが印象的。(西) |
晴れときどき野バラ | くすのきまこ | 千葉県 | 山形が舞台だから選んだわけではなく、自分の場所を見つけて日々生きる人の風景・やりとりを、あたたかく心地いい雰囲気で描いていて好感が持てた。(青) |
透明な犬の話 | 片島麦子 | 広島県 | テーマを昇華しきれているとはいえないけれど、死と透明な犬との組み合わせで物語に躍動感がある。姉の死の場面は胸がじんとした。いい話です。(青) |
非公開の女 | 長月朝美 | 東京都 | 面白い。よくこれだけ性格の悪い(意地悪)女の人の視点で書けたなと思いました。こういう人はいますし、ブログの使い方もうまい。好き嫌いがある小説だと思う。(青) |
雨の種を鳴らして | もりまりこ | 神奈川県 | なんということない話なのに、文章がなめらかでまとまりがいい。自分(主人公)と人に共通する“さびしい気持ち”が作品全体から伝わってきます。(青) |
さくらんぼ | 風視のり | 東京都 | ラストが凝った仕上がりになっていて面白かった。(池) |
ロボットは嘘をつかない | 好滝ミエ | 愛知県 | SFの設定がテーマと深くかかわっていてよい。(池) |
※作品順不同
※コメント最後の( )内署名については下記を参照。
【 一 次 選 考 で あ が っ た 声 】
一次選考にかかわった方々よりコメントをいただきました。
◆家族、思春期の心の揺らぎ、恋愛、様々なテーマが短編小説になり、文章を書き慣れているのか、一定のレベルに達していると思いました。書きたいことを掘り下げて、オリジナリティを深めるといいと思います。(青木千恵氏)
◆ひとりよがりに面白がって創った物語は小説とは呼びません。今回、文章のレベルはそこそこだったものの、小説とは呼べないモノローグのようなものが多かった。辛うじて達している作品も残念ながら面白くない。書き終わった後、一度は他人に読んでもらってください。 (東えりか氏)
◆短編は、短い長編ではないということに自覚的になってほしいです。物事の一局面を鋭く切りとる。それが短編の醍醐味であり、あるべき姿です。もう一点は「わたし」話からの脱却です。もっと物語を創ってください。「わたし」の経験をフィクションへと「昇華」させてください。読了後、それで貴方は何が言いたいのでしょうか? という作品がほとんどでしたので。(西上心太氏)
◆小説というよりも「セルフ・ノンフィクション」とでも言うべき作品が目立ちました。応募される方はこの規定枚数で何が書けるか、何を書くのがふさわしいか。そこに留意して、プロの作品を読むことから始められてはどうでしょう?(温水ゆかり氏)
◆正直に言うと、わたしが読んだ50篇の全体としてのレベルはいまひとつでした。短編という小説形式は、単に短い小説というだけでなく、そこに描きたい何かを凝縮したり、人生の一断面を切り取ってみせる技が必要なわけで、そのあたりを理解できていない応募者が多かったように思います。まぁ、まだ第一回だし、小説に初チャレンジの応募者も多かったようなので、やむないこととは思いますが。一方、ヒロインの姿に自身を投影し、その心情をビビッドに描いたものが多かったのには、好感が持てました。そのあたりを出発点として、さらに一歩踏み込んだ応募作がもっと増えることを期待したいと思います。(三橋曉氏)
◆今回、初めて文学賞の下読みをさせていただきましたが、みなさん思っていた以上に達者でした。ちょっと直せば小説誌に掲載できるレベルの作品も多々あり、かといって突出している作品はなかったように思います。読者を腕力でねじ伏せるような、凄まじい小説に出会いたいですね。(柳原慧氏)
◆全体的に、「読者」を意識して書かれた作品が少なかったように思います。「恋愛・自分探し・家族」が応募作品の三本柱になっていて、それはそれで構わないのだけれど、語り口、切り口にもっと新鮮さが欲しかった。(吉田伸子氏)
◆箸にも棒にもかからない作品は意外と少なかった。逆に、ダントツでうまい! 面白い! という作品も少なかった。まとまっているけれどインパクトがない、文章は個性的だけど物語が観念的すぎる、テーマは強いが文章が生硬など、どこかに問題点がある。もっと小説を読んで、自分の長所と欠点を見出してほしいと思う。(池上冬樹氏)