
唯川 恵
『土に埋める』
義母が義父の骨と引き裂いた服を土に埋めるという、強烈なシーンから始まり、期待して読み進めたが、物語にのめり込めないまま終わってしまった。作者独特の言い回しは、読み手からすると的確だとは思えない。擬音や使い古された言い回しが、安易に使われているところも気になる。義母、夫、美月との関係性について、もっと深く書き込めば、格段によくなるのではないかと思う。
『空を見上げて、大地を踏んで』
エンターテイメント小説として、面白く読んだ。とても映像的で、このまま二時間ドラマの原作になっても不思議ではない。けれども小説としては少々物足りない。物語としての奥行きが感じられない。原稿でかなりの空行を使っているが、その意図も私にはよくわからなかった。ストリーテラーとしての才能がある方であることは間違いないと思う。
『悲友』
発想は面白いのに、残念ながら、文章がついていかなかった。比喩は一考した方がいい。一言で言えば、大袈裟過ぎる。八十枚という枚数、前半と後半のバランス、構成ももう少し考えて書かれた方がよかった。
『通岡峠』
迫力ある題材と文章が、とてもマッチしていて、大変面白く読んだ。廃油集めの青年の存在や、海辺のラーメン屋の描写など、皮膚感覚で伝わってくる。私は「○」を付けた。ただ、最初の夕子の日記は長すぎる、物語自体がかつてのATG映画に似て新鮮味がない、などの難点も気になった。書く力のある方なので、新たな題材で、またぜひ書いていただきたいと思う。
『記憶』
文章がうまく、独自の世界があり、はっとさせられる一文に何度も出会った。読ませる力と、小説的センスがある方だとよくわかる。ただ、それゆえ、少々エピソードを詰め込み過ぎて、却って平坦になってしまっている。そこが残念ではあるが、欠点というほどでもない。これからが楽しみな方である。いい作品を選べて私も嬉しく思う。受賞、おめでとうございます。