第三回「さくらんぼ文学新人賞」選評

唯川 恵

 

 『土に埋める』

 義母が義父の骨と引き裂いた服を土に埋めるという、強烈なシーンから始まり、期待して読み進めたが、物語にのめり込めないまま終わってしまった。作者独特の言い回しは、読み手からすると的確だとは思えない。擬音や使い古された言い回しが、安易に使われているところも気になる。義母、夫、美月との関係性について、もっと深く書き込めば、格段によくなるのではないかと思う。


『空を見上げて、大地を踏んで』

 エンターテイメント小説として、面白く読んだ。とても映像的で、このまま二時間ドラマの原作になっても不思議ではない。けれども小説としては少々物足りない。物語としての奥行きが感じられない。原稿でかなりの空行を使っているが、その意図も私にはよくわからなかった。ストリーテラーとしての才能がある方であることは間違いないと思う。


『悲友』

 発想は面白いのに、残念ながら、文章がついていかなかった。比喩は一考した方がいい。一言で言えば、大袈裟過ぎる。八十枚という枚数、前半と後半のバランス、構成ももう少し考えて書かれた方がよかった。


『通岡峠』

 迫力ある題材と文章が、とてもマッチしていて、大変面白く読んだ。廃油集めの青年の存在や、海辺のラーメン屋の描写など、皮膚感覚で伝わってくる。私は「○」を付けた。ただ、最初の夕子の日記は長すぎる、物語自体がかつてのATG映画に似て新鮮味がない、などの難点も気になった。書く力のある方なので、新たな題材で、またぜひ書いていただきたいと思う。


『記憶』

 文章がうまく、独自の世界があり、はっとさせられる一文に何度も出会った。読ませる力と、小説的センスがある方だとよくわかる。ただ、それゆえ、少々エピソードを詰め込み過ぎて、却って平坦になってしまっている。そこが残念ではあるが、欠点というほどでもない。これからが楽しみな方である。いい作品を選べて私も嬉しく思う。受賞、おめでとうございます。

 
 
 


北上 次郎
 
 
 私がいちばん惹かれたのは村山小弓「悲友」。モチーフだけならこの作品が突出していたと思う。母親が息子の元カノと仲良くなるという筋立ては、単に親しいとのレベルを超えて、生き方の模索に繋がっているから素晴らしい。息子の婚約者に問題があるわけではなく、元カノはヒロインの新しい生き方を写す鏡なのである。息子が怒っても、家を捨てても、ヒロインは年下の新しい友人のほうを選ぶという筋立ては、女性の友情小説が流行っている昨今でも新鮮であると思う。問題は、モチーフは素晴らしいのだが、それを表現する文章が内容に見合ってないこと。特に前半4分の1は全面的に書き改める必要がある。妙な比喩が多出するし、未整理な文章が目立つ。作者が書こうとしたことには惹かれるのだが、これでは推しきれない。

 いちばん安定していたのは、桐生環「空を見上げて、大地を踏んで」。キャラクター造形も文章も構成も、平均以上の出来なので安心して読むことが出来る。しかしテレビドラマみたいで推せないという唯川さんの意見にも頷けるところがある。

 沢野繭里「土に埋める」は妻の苦悩(あるいはとまどい)を描ききれていない。説明の範疇を出ていないところに問題がありそうだ。文章にも一考の余地がある。

 最後までもめたのは、村上敬「通岡峠」。小説にケレンは必要だが、新人賞応募作にはどうかという問題がある。劇的なこと、ドラマチックなことを背景に置くと物語を動かしやすいという事情はあるのだが、新人賞応募作にその手を使うのはどうか。出来れば、何も起きない話、何かが起きてもそのことに寄りかからない話を読ませてほしいと思うのである。

 大賞受賞となった中村玲子「記憶」も問題がないことはない。しかし藤島を始めとする脇役たちの造形と描写、さらには大胆な省略と構成が見事。つまりこの作品の場合、欠点を美点が上回っているということだ。さらなる飛躍を期待したい。