
第3回さくらんぼ文学新人賞
応募総数401作品
三次選考を通過した作品は以下の5本です。
この後、最終選考会を経て大賞作品を決定いたします。
※作品順不同
タイトル | 著者名 | 都道府県 |
| 土に埋める | 沢野 繭里 | 奈良県 |
| 通岡峠 | 村上 敬 | 埼玉県 |
| 記 憶 | 中村 玲子 | 千葉県 |
| 空を見上げて、大地を踏んで。 | 桐生 環 | 静岡県 |
| 悲 友 | 村山 小弓 | 東京都 |
【三次選考を終えて】
第3回さくらんぼ文学新人賞3次選考会は、例年同様、東京の新潮社の会議室で行われるはずだった。今年も3月30日を予定していて、事務局と運営委員の僕が上京して、新潮社の編集者たちと議論をたたかわせ、最終候補作5本を決定することになっていたのだが、今回は、東日本大震災の影響で交通機関もストップしたために、上京かなわず、電話での会議となった。
はじめての試みで、不慣れなこともあり、例年同様議論をたたかわせると時間がかかるので、事前に新潮社編集部と事務局がそれぞれベスト5をきめて会議にのぞむことにした。意見があわなかったらどうしようかと思ったが、驚いたことに、多少の温度差はあったものの、4本が重なった。「土に埋める」「空を見上げて、大地を踏んで」「記憶」「悲友」である。
新潮社の編集者によるコメントを中心に紹介すると、まずは「空を見上げて、大地を踏んで」に評価が集まった。キャラクターもしっかり立っており、前向きな希望も語られ、ドラマティックな台詞も書けて、話として完成している。女性たちのドタバタ劇はもういいよという感じもあるが、もう一作、この登場人物で読みたくなる。
「土に埋める」は、主人公の義母のおばあさんがいい味をだしている。オリジナリティがあるし、筆を省略する加減もよく、メリハリがある。場面場面のイメージ喚起力も強い。
「記憶」は、伝えたいことが明確で、土建屋の雰囲気もよく書けている。盛り込みすぎも部分があるが、言いかたをかえれば、手数が多く、意欲があるということであり、文章にもハッとする表現がある。
「悲友」は、好感の持てる小市民リアリズムである。息子の元カノへの共感という新しい愛情の持ち方、人間関係の結び方が面白い。手芸という小道具の描き方もうまく、効果的だ。
以上で4本、残り1本の候補作をどうするかで、若干のやりとりがあった。「ぬるま湯でやけど」「通岡峠(かよおかとうげ)」「Bread&Butter」の3本が話題になったけれど、たいした議論にもならず、「通岡峠」に決定した。もともと新潮社編集部は「空を見上げて、大地を踏んで」が1位推薦で、同率2位として「土に埋める」「記憶」「通岡峠」を推していたからである(3位が「悲友」だった)。
この作品がいいのは、物語に有無を言わさぬ迫力があるからである。古くさくて昭和な感じもあるし救いがないけれど、話法に工夫があり、人物も舞台もくっきりしている。とくに女将のいやらしさなど、うまい。今となっては三陸の描写が目に痛い(※「通岡峠」は大船渡と陸前高田を結ぶ海沿いの峠である)。
なお、余談になるが、未曽有の大惨事、東日本大震災がおきなければ、「ぬるま湯でやけど」や「Bread&Butter」などがもうすこし検討されたかもしれない。手堅いうまさが光るものの、残酷で痛ましい惨事が続く状況下では、いささか微温的にうつるきらいがあった。フィクションがどこまで人々の胸をうち、傷ついた心をいやすことができるのか、それが問われた選考会でもあった。
最終候補になった5本はいずれもテーマが強く、読み応えのある作品である。今月27日に行われる本選では、どの作品が選ばれるのか、いまから楽しみでならない。
(運営委員・池上冬樹)