納得のグルメ勝負「極道めし」
わしの作った料理が世界一じゃ~い!
などと叫ぶような異様なジャンル。昔から日本のマンガには料理でバトルするという奇妙な世界がある。凄腕の料理人同士が最高の料理を作りあって、どっちがうまいかを競いあうという熱のこもった勝負モノだ。
「包丁人味平」や「ミスター味っ子」、テレビドラマや映画にもなった「美味しんぼ」なんかが有名だろうか。今でも「ラーメン発見伝」や「きららの仕事」でそうした戦いを見ることができる。料理人たちが人生を賭け、前のめりになりながら素材を吟味。徹夜を繰り返して仕込に全精力を傾ける。読んでいるときはその熱さにすっかり乗せられてしまうけれど、冷静に考えると現実には成立しにくいのではないかと疑問に思うことがある。
料理人たちが尊厳と店の名誉を賭けて作った料理である。またこうしたグルメ勝負の場合、大勢の観客に見守られながら審査員が食べたりする。ハッタリの効いた作品であれば、東京ドームみたいなスタジアムのど真ん中で、しかもテレビ中継もされていて、全国のお茶の間に食っている姿が流れるのだ。どれほど高名な料理人が作った料理でも、そんな環境で食べるのはただただ苦痛でしかないんじゃないかと思う。そんな状況で「うん、うまい。けれど少しコクが足りないかも」などと冷静に批評ができたとしたら、それは舌が肥えているというよりも、心臓に毛が生えているからではないだろうか。少なくとも私には無理だ。
なんてひねくれた考えを抱いていたが、心の底から納得できるグルメ勝負コミックの傑作に出会うことができた。グルメコミックの巨匠土山しげるの「極道めし」である。この作品で取り上げられる料理はびっくりするほどチープ。トンカツ、立ち食いソバ、お好み焼き。卵がけご飯やパイナップルのカンヅメのシロップ(!)なんてものまで大マジメに語られる。
大阪の刑務所のとある雑居房が舞台。正月には囚人たちにおせちの折詰料理が振る舞われるのだが、そのなかの一品を賭けあって争奪戦を行うというもの。勝った囚人一人が全員のおせちから一種類ずつ取れるのだ。勝負の方法は「旨いもの話」。一人一人がこれまで一番旨かった食い物の話をする。そのなかでもっともみんなが旨そうだと思える話をした人間が勝ちという仕組み。
なにせ刑務所の「くさいメシ」しかありつけない男たちだ。読者の私たちが食べようと思えばいつでも食べられる他愛もない料理の話に喉をごくっと鳴らす。悪ガキ時代にインベーダーゲームをやりながら食べた古い喫茶店の甘~いナポリタン。ヤクザの事務所で食べた出前の餃子とチャーハン。所持金わずかのなかで食べる真冬のインスタントラーメン。むしろ高級料理はみんなの共感を得られず、こうした大衆的な食べ物ほど仲間から支持されるのだった。
それにしてもダイエット中なら読むのを避けるべき一冊ではある。この作品に登場する食べ物は冷蔵庫を開ければ、もしくはちょっと走れば簡単に手に入るものばかり。ふだんは気軽に食べているB級かつ安価な食べ物であろうと、食べる側の事情やシチュエーションによってはいくらでも最高級の料理に変貌することを読者に教えてくれる。
1ページ丸ごと使って卵かけご飯を掻きこみ、あるいはカンヅメのシロップをごくごくやる男を描写する様はかなり滑稽ではある。しかしそんな食に対する情熱と敬意、大マジメにそれを描く作者をリスペクトせずにはいられない。読んでいて思わず喉が鳴る名作だ。